優勝インタビュー 参加者インタビュー 向川尚樹の実走レポート


第15回スズカ8時間エンデューロ秋spお疲れ様でした。肌寒い一日でしたが、晴天に恵まれ、目一杯自転車を楽しんで頂けたかと思います。
レースは朝から風が強く4時間・8時間共に例年より早い段階で集団は少人数に絞られました。特にホームストレート・スプーンカーブは強い風に煽られて皆さんを苦しめたかと思います。こんな時こそ選手同士協力し集団を形成して走行すれば楽に走れるのですが、独走している選手が非常に多かったように思えます。今回のコラムは自転車競技の面白さでもある集団走行について説明したいと思います。


ロードレースを観ていると大勢の選手が群れになって走ってきます。選手のレベル(レースのカテゴリー)が高いほど、より接近して走る傾向があります。なぜ前方の選手との車間を詰めて、左右は肩と肩がぶつかり合うまで接近して走るのでしょうか?それは、空気抵抗を軽減する為に、前方を走行する選手の後ろへ後ろへ(風下)各選手が廻り込む結果このような状態になります。ではどれほどの空気抵抗が軽減されるのでしょうか?


自転車の場合、速度が倍になると空気抵抗は2乗、速度が3倍になると3乗という具合に抵抗が増していきます。ちなみに自転車最高速度のギネス記録は平坦路で268 km/hだったと思います。これは無風状態の記録で、車の後ろに風除けする為の装置をつけて、ドラフティング状態で走行した記録です。無風状態とはいえ想像以上の速度ですよね。しかし、空気抵抗が生じると、ロードバイクでスプリントに自信がある選手でも平坦路で70km/hに到達すれば上等だと思います。70km/hのスピードを出すにあたって瞬間的には2馬力弱は出ているかもしれませんが、加速からMAXスピードに到達するパワーの平均は1馬力出ていないと思います。更に、5分・10分と持続可能な有酸素運動のパワーとなるとトップの選手で0.3〜0.4馬力ほどしか出ません。人間って非力ですよね。ちなみに原付は5馬力くらいです。例年の入賞者のアベレージスピードは40km/hほど。これを原付で走ると全快スピードまではいきませんが、8割ほどのパワーで走るくらいになると思います。しかし、人間は原付の10分の1ほどの力しか出せないので、1人で風を切り裂きながら8時間をこのスピードで走りきるのはほぼ不可能です。8時間とは言わず例えサーキット1周を(5.8km)トップ選手が走ってもかなりの体力を消耗すると思います。1人ではめちゃくちゃキツイですが、2名で先頭交代し、ドラフティングの恩恵を受けながらサーキット1周を40km/hで走ると少し楽に感じると思います。更に人を増やして10名だとかなり余裕が出てくると思います。先頭に出る選手(風除け)を交代しながら走行すると1人では不可能な巡航スピードが可能になります。10人だと1人あたり580mほど先頭で風を切り裂けばコースを1周回走ることができます。それ以外の選手はドラフティング状態なので、感覚的には風を切り裂いて走る先頭の半分位の力で走行している感じになります。ここまでで群れをなして先頭交代を行う理由が分かったと思います。次に上手に先頭交代を行う方法を紹介したいと思います。


まず、大切なのはペースを一定で走ることです。急な加速は隊列を乱すだけではなく、車と同じで燃料(体力)を消耗します 。ここではスピードではなくペースと表現しましたが、コースには登りもあれば下りもあります。登りでは当然スピードが落ちますし、下りではスピードが上がります。スピードに意識を囚われず、先頭の人は同じ力でペダルを踏み続ける事がポイントです。スピードの変化にはギアを変速してペダルの回転を一定にして走るとペースの感覚を掴み易いと思います。
また先頭を交代する時、左へ退避する場合は右手で後方の選手に合図を出してあげると交代のタイミングが分かり易いと思います。右退避の場合はその逆ですね。交代して先頭に出た選手は、ドラフティング効果を経て脚力が回復しているので、前の人から引き継いだスピードが遅く感じると思いますが、同じペースで走る事が重要です。自分が回復しているからといって急加速すると、さっきまで先頭を走っていた人が後方で回復できないですよね。脚力に余裕がある選手は先頭を長めに走ってあげる事で、後方の選手は回復時間が長くなり、先頭に回って来る時をよりフレッシュな状態で迎える事ができます。そうすると結果的にそのグループの平均速度が上がっていくという訳です。
あと、目線は前の人の後輪だけを見ない事。車間が狭くなると、目線も近くなりがちです。目線は自分が走っているグループの先頭を見るつもりで視野を広くして走行しましょう。


さて上級編では、アベレージスピードを効率良く上げる方法を紹介します。基本となるのは、後方のドラフティング状態の選手に掛かる負荷を一定にして、先頭を走る選手の負荷は先頭を引く時間で調節するという考え方です。どういう事かと言いますと、下り坂や向かい風では後方の選手はペダルを漕がなくてもいい時もあり、力を持て余します。グループ的に考えるとロスが出ている事になりますので、先頭の選手はそうならないようにペースを上げる必要があります。しかし、向かい風や下り坂でペースを上げると先頭の選手の負担が大きくなります。それを防ぐ為に、交代のタイミングを早めて、先頭を引く選手のダメージを軽減させます。
また、登り坂や追い風の場合は、後方の選手はドラフティングの恩恵が少なくなり、先頭にいても後方にいてもあまり変わらない負荷がグループ全員に掛かります。この場合は先頭を引く時間を長めにする事でグループはまとまり易くなります。更に、勾配のキツイ上り坂の場合はグループ全員でクリアー出来るようにスピード調整が必要です。登り坂で無理をしてグループを崩壊させてしまうと、後の下り、平坦では少人数で空気抵抗を分担する事になるので失速していく一方ですよね。もしレース中、ライバルを引き離してゴールへ向かう場合、残りの距離や時間を計算して、ここからなら後続を引き離して独走で、またはこのメンバーなら逃げ切れるという読みが重要になってきます。
 次に先頭交代を行う際に、風向きによって先頭の選手は退避する方向を右、左と変えると効率よく交代できます。どういう事かと言いますと、進行方向に対して、左側から風が吹くと、風下は進行方向に対して右後方になるので、後方の選手は右後方に向かって隊列組んで行くと、効率よく風除けが出来る事になります。
その際に気をつけないといけないのは、先頭の選手の退避方向です。この図の場合、後方の選手の前輪は前方の選手の右側に重なっているので、左へ退避するとスムーズに先頭から退避できます。しかし、逆の右側へ退避すると、後方の選手の前輪に接触する事になるので危険ですよね。グループ全員がこのフォーメーションを理解しないと危険が生じます。どうすれば上手く交代が出来るか?それは先頭から2番目(赤の選手)の人が、「右交代、左交代」と指示をしながら走るとうまくグループがまとまります。誰か知らない選手でも安全に走る為なのでお互い声を出し合って走ることが重要です 。


今回は、空気抵抗を軽減するテクニックを紹介しました。コレを読むと、先頭に出ずに、後方待機でゴール前だけ先頭に出れば一番ええやん、と思う方がおられると思います。確かに空気抵抗の事だけを考えるとその通りです。ルール的にも違反ではありません。しかし、選手宣誓で「スポーツマンシップに則り、正々堂々と戦う事を誓います」とあるように、同じ土俵(カテゴリー)で戦っている選手同士は、姑息なマネはせず、自転車乗りとしてのプライドを懸けて、力と力で戦って頂きたいと思います。
次回のレースから活かせて頂ければ幸いです。